オフィスで承認申請書類とタブレットを確認する薬事担当者

薬事承認プロセス ― プログラム医療機器(SaMD)の規制を理解する

治療用アプリを医療現場に届けるには、医薬品医療機器等法(薬機法)に基づくプログラム医療機器としての薬事承認が必要です。本ページでは、医療機器該当性の判断からクラス分類、治験、PMDA審査、承認後の変更管理までの一連のプロセスと、規制当局による産業振興策の現況を解説します。

プログラム医療機器(SaMD)とは ― 薬機法上の位置づけ

SaMD(Software as a Medical Device)とは、ハードウェアに組み込まれず、ソフトウェア単体で医療機器としての機能を発揮するプログラムを指します。日本では2014年に施行された薬機法(旧薬事法からの改正)により、プログラム単体が「医療機器プログラム」として規制対象に位置づけられました。治療用アプリ・DTxは、このプログラム医療機器の一類型です。

プログラムが医療機器に該当すると、製造販売業の許可、品質マネジメントシステム(QMS)体制の整備、承認・認証の取得、市販後安全管理といった医療機器規制の全体系が適用されます。一般的なアプリ開発と決定的に異なるのは、リリース後のアップデート一つをとっても規制上の手続が関わる点であり、開発体制・組織設計の段階から規制対応を織り込む必要があります。

ヘルスケア事業者にとって最初の分岐点は「自社のプログラムが医療機器に該当するか」です。疾病の診断・治療・予防に使用されることを目的とするか、機能不全時のリスクがどの程度かといった観点で判断され、厚生労働省はガイドラインや該当性判断事例を公表しています。医療機器該当性の設計を誤ると、広告表現の制約や販売チャネルの前提が崩れるため、事業構想の初期段階での確認が不可欠です。

体制面のコストも見逃せません。プログラム医療機器の製造販売業者には、品質マネジメントシステム(QMS省令)への適合、安全管理責任者などの三役体制、文書管理・記録管理の仕組みが求められます。ソフトウェア企業がこれらをゼロから整備するには相応の時間と費用がかかるため、規制対応体制の構築を支援するコンサルティングや、許可を持つパートナー企業との分業も、業界の実務では一般的な選択肢となっています。

医療機器該当性とクラス分類 ― リスクに応じた規制

医療機器は、不具合が生じた場合の人体へのリスクに応じてクラスI(一般医療機器)からクラスIV(高度管理医療機器)までに分類されます。プログラム医療機器では、多くの治療用アプリや診断支援プログラムがクラスIIまたはクラスIIIに該当し、クラスIIの一部は登録認証機関による「認証」、新規性の高いものはPMDA審査を経た大臣「承認」が必要になります。

治療用アプリのように前例のない新カテゴリーの製品は、認証基準が存在しないため承認申請となるのが通常です。承認審査では、臨床試験成績を含む申請資料に基づき、有効性・安全性・品質が審査されます。既存治療に対する上乗せ効果をどのようなエンドポイントで示すか、対象患者をどう定義するかといった開発戦略は、PMDAとの対面助言(相談制度)を活用しながら固めていくことになります。

なお、疾病リスクの表示や一般的な健康管理にとどまるプログラムは医療機器に該当せず、非医療機器(ウェルネス)として展開できます。医療機器該当・非該当の線引きは、規制コストと訴求力のバランスを決める戦略変数であり、同じ企業が医療機器版と非医療機器版を並行展開するケースも見られます。

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治験からPMDA審査・承認までの流れ

治療用アプリが承認に至るまでの標準的な道のりは、おおむね次のステップで進みます。開発初期の探索的試験を経て、承認申請の根拠となる検証的治験(多くはランダム化比較試験)を実施し、その成績をもってPMDAに製造販売承認申請を行い、審査・調査(QMS適合性調査等)を経て承認に至ります。

治療用アプリ承認までの標準プロセス

  • STEP 1
    コンセプト設計・該当性確認:対象疾患と介入設計を定め、医療機器該当性とクラス分類の見通しを確認。PMDAの相談制度を活用。
  • STEP 2
    プロトタイプ開発・探索的試験:ユーザビリティと臨床的シグナルを検証し、検証的治験のエンドポイントを設計。
  • STEP 3
    検証的治験(RCT):シャム対照や通常治療対照との比較で有効性・安全性を検証。治験計画はPMDAと事前相談。
  • STEP 4
    製造販売承認申請・審査:臨床成績・品質・リスクマネジメント資料を提出し、PMDA審査と専門協議、QMS適合性調査を受ける。
  • STEP 5
    承認・保険適用手続:薬事承認後、保険適用希望書を提出し、中医協での審議を経て保険償還価格・技術料評価が決定。

期間の目安は製品や領域によって大きく異なりますが、検証的治験の開始から承認まで数年単位を要するのが実情です。ソフトウェア開発のスピード感と薬事規制のタイムラインのギャップをどうマネジメントするかが、DTx開発企業の経営課題となります。この点を緩和する制度として、後述の優先審査や二段階承認の枠組みが整備されつつあります。

PMDAの相談制度には、開発前の全般相談から、臨床評価の要否や治験デザインを協議する対面助言まで複数のメニューが用意されており、プログラム医療機器については一元的な相談窓口も整備されています。相談には費用と準備期間がかかりますが、審査段階での手戻りを防ぐ投資として、経験豊富な開発企業ほど早期・複数回の相談を活用する傾向があります。資金調達計画にも、治験費用とあわせて薬事関連費用を織り込んでおくことが重要です。

DTx特有の臨床評価 ― エビデンス構築の考え方

治療用アプリの臨床評価には、医薬品とは異なる固有の難しさがあります。第一に対照群の設定です。錠剤であればプラセボ(偽薬)を用意できますが、アプリでは治療コンテンツを除いた「シャムアプリ」を設計する必要があり、どこまで機能を削るかによって試験の厳密さと実施可能性が変わります。第二に盲検化の限界です。患者は自分が使うアプリの内容を認識できるため、完全な二重盲検は困難であり、評価者盲検や客観的エンドポイントの採用で補うことになります。

第三に、デジタル特有の「使われなければ効かない」という性質です。医薬品の服薬アドヒアランスに相当する概念として、アプリの利用継続率(エンゲージメント)が治療効果を大きく左右します。治験では高い利用率が維持されても、実臨床で同じ水準が保てるとは限らず、市販後のリアルワールドデータによる検証が重要になります。

規制側でも、プログラム医療機器の特性を踏まえた評価指標や臨床評価の考え方に関するガイダンス整備が進められており、行動変容を介する機器の評価方法は国際的にも議論が続いています。エビデンス戦略の巧拙が承認の成否と開発コストを決めるため、臨床・統計・規制の専門人材をどう確保するかが、開発企業と支援産業双方のビジネスポイントです。

規制の進化 ― DASH for SaMD・二段階承認・IDATEN

プログラム医療機器の実用化を促進するため、厚生労働省とPMDAは2020年に「プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略(DASH for SaMD)」を打ち出しました。医療機器該当性の相談窓口の一元化、審査体制の強化、萌芽的シーズの早期把握などが盛り込まれ、2023年には第2弾(DASH for SaMD 2)として優先審査・優先相談の枠組みや承認基準の明確化など、さらに踏み込んだ施策が示されました。

特に注目されるのが「二段階承認」の考え方です。第一段階では限定的な臨床エビデンスに基づき早期に承認し、市販後に実臨床データを収集して、第二段階でエビデンスを拡充した本格承認につなげるという枠組みで、革新的SaMDの早期市場投入と着実な検証を両立させる狙いがあります。また、医療機器の改良が頻繁に行われる特性に対応する変更計画確認手続制度(IDATEN)により、あらかじめ確認を受けた変更計画の範囲内であれば、迅速なアップデートが可能になっています。

AIを活用したプログラム医療機器では、市販後の学習によって性能が変化し得るという新しい論点もあり、規制の枠組みは現在進行形で進化しています。規制動向のウォッチは、DTx事業の投資判断・提携判断に直結する情報活動と言えるでしょう。

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承認後の変更管理・市販後対応

ソフトウェアは承認がゴールではありません。むしろ承認後にこそ、OSアップデートへの追随、機能改善、セキュリティ対応という継続的な変更管理が発生します。プログラム医療機器では、変更内容が承認事項の一部変更承認申請を要するのか、軽微変更届で足りるのか、IDATENの計画内変更として扱えるのかを都度判断する必要があり、薬事部門と開発部門の緊密な連携体制が求められます。

市販後には、不具合報告や安全管理情報の収集・報告義務(GVP)、品質管理(QMS)の維持に加え、二段階承認や条件付き承認の枠組みではリアルワールドエビデンスの収集そのものが承認条件となる場合があります。医療データの取り扱いには個人情報保護法制や医療情報システムの安全管理ガイドラインへの適合も必要で、セキュリティ・プライバシー対応は事業運営の恒常的なコストとなります。

こうした承認後の運用まで含めたトータルの規制対応力が、DTx企業の競争力であり、製薬企業・大手医療機器メーカーとの提携価値の源泉にもなっています。次ページでは、承認の先にあるもう一つの関門、保険償還とビジネスモデルを解説します。

サイバーセキュリティへの対応も承認後の重要テーマです。医療機器サイバーセキュリティに関する国際的なガイダンスを踏まえ、脆弱性への対応プロセスや通信の保護、インシデント発生時の報告体制の整備が求められます。治療用アプリは患者の健康情報を継続的に扱うため、セキュリティは規制対応であると同時に、医療機関・患者からの信頼を支えるブランド要素でもあります。